2006年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート

SLAM(Simultaneously Localization and Mapping)とは



SLAM(Simultaneously Localization and Mapping)とは
 各種センサから取得した情報から、自己位置推定と地図作成とを同時に行う方法。
 周囲の環境形状を把握し、その形状データをもとにロボットの自己位置も推定する。
 自律移動ロボットや海軍の水雷探知UUVに利用される。
 (今回は自律移動ロボットでの利用に関して記述する)


技術背景
 日本のロボット市場は、近年、約5000億円前後で推移しており、その大半を産業用ロボットが占めている。産業用以外のロボットについては、一部にエンターテイメント用ロボットの市場が存在するが、その市場規模は約70億円程度に止まっており、今すぐに大きな市場の伸びが期待できるとは言い難いのが現状である。
 その中、2005 年に行われた愛知万博において、実証試験を兼ねて様々なロボットが運用され、展示された。実証試験を経て、当該市場を牽引すると想定されるロボットは、役割が確定している業務用ロボットとの見解が有力である。富士重工業の清掃用ロボットや綜合警備保障の警備ロボットなどが実績を挙げており、今後も市場成長が見込まれている。2010 年においては、各メーカーの商品化時期に大きく左右されることになるが、清掃、警備等の業務用、コミュニケーション用ロボットなどの市場を中心として市場が拡大し、普及ケースとしては550億円程度の市場規模が想定される(図 1)。 清掃、警備用ロボットなどは自律移動ロボット、つまり自分自身で判断して移動するロボットであるが、様々な場所での利用が求められ、常に既知の状況で活動するとは限らない。よって今後のロボット開発において、未知の環境での対応が重要な課題である。
 未知の環境を認識するため、ロボットが環境を移動して得た局所地図を結合して、全体地図を作成しなければならない。局所地図の結合にはそのときのロボットの位置を正確に知る必要があるが、ロボットの位置は全体地図がないとわからない。このため、この両者を同時に推定するSLAMの技術が必要とされ、移動ロボットのマップ構築の分野で盛んに研究されている。

図1 エンターテイメントロボット市場規模推移

技術内容
 未知の環境で自己位置推定と、地図作成を同時に行うということは、相反する要求でもある。なぜなら、自己位置を推定するためには地図が必要であり、高い精度の地図を作るためには自分の位置を同定することが必要であるからだ。しかし、SLAMではセンサを用いて、移動ロボット周囲の環境形状を把握し、その形状データをもとにロボットの自己位置も推定することでその要求を可能にした。自分の位置を推定、修正しながら地図を作って歩くのである。(センサとしてレーザー距離計や全方位カメラを使用する)
 手法は、大きく分けて2つある。ひとつはS.Thrunらが行っているベイズの定理を用いて確率的に自己位置推定を行う方法[S. Thrun, D. Fox, W. Burgard, and F. Dellaert. Robust MonteCarlo Localization for Mobile Robots. Artificial Intelligence J.,2001.]である。もうひとつは,Chen らが行っているスキャンマッチング[Y. Chen and G. Medioni. Object Modeling by Registration of Multiple Range Images. Proc. IEEE Int. Conf. On Roboticsand Automation, 1991.] という方法である。

・ベイズの定理

  p(x|d) = np(d|x)p(x)

 p(x|d) ・・・ 事後確率(データdから未知数xが推定できる確率)
 x ・・・ 未知量
 d ・・・ 計測データ
 n ・・・ 標準化数(確率の合計を1にするため)
 p(d|x) ・・・ センサモデル(センサの測定値の確率分布)
 p(x) ・・・ 事前確率(データが入る前の確率)

観測者が距離計を用いて対象物までの距離を計測し(距離計データd)、そのデータが対象物までの真の距離(未知量x)である確率を算出する。
SLAMに応用する場合、計測データが移動量と距離計、未知量がロボットの位置と対象物との距離の2つに増える。これをベイズフィルタとよぶ。 ベイズの定理 ベイズフィルタ

・スキャンマッチング
 スキャンマッチングとは、センサから時々刻々と得られるデータ(環境のスキャンデータ)を逐次重ね合わせていき、重ね合わせの際のスキャンデータの移動量からロボットの移動量を推定する手法である。このスキャンデータを重ね合わせる方法も、点と点で合わせる方法(ICP:Iterative Closest Point[F. Lu and E. E. Milios. Globally consistent range scan alignment for environment mapping. Autonomous Robots, vol.4,pp. 333-49, 1997.])や、点データをいくつかのセグメントに分けて形と形で合わせる方法など色々な方法が考案されている。

図2 SLAMのICPを利用して作成された地図

技術の利用
 SLAMに関する研究は、現時点でレーザーレンジファインダやステレオカメラなど、情報量の多いセンサを用いて、ほぼリアルタイムの地図作成ができるようになり、戦闘地域の偵察や惑星探査などにおいても実用的なレベルにまで達している。その他にも、SLAMを用いた自律移動ロボットは様々な状況での活躍が期待されており、現在の研究では一般家庭やオフィス環境での作業、災害時の人命救助や被害状況の把握などでの実用化を目指している。
 現在実用化されている移動ロボットは、ライントレースや、内界センサによる制御、地図やランドマークによる既知領域の移動がほとんどである。しかし、ドラえもんや鉄腕アトムのような、より高度などこでも歩き回れるロボットを開発するためには、未知の環境でも自律的に地図を作り出せるSLAMという能力が必要不可欠である。

今後の発展
 この研究の多くは、エンコーダ以外のセンサによって得られる情報によって、オドメトリを補正するものであり、どうしても長距離移動した際に地図が歪むなどの事が起こってしまう。正確な自己位置を把握し、より高精度な地図を作成することが今後の課題である。
 また、現在は個別のロボットを対象としているが、センサやアクチュエータが異なるロボット同士でのコミュニケーションや、他のロボットでの地図の再利用へ応用できる可能性がある。複数台での作業は時間の短縮につながり、また、データの移動のみで高速に実行できるのであるから、ロボット同士のコミュニケーションや協力作業はSLAMのさらなる発展に欠かせない要素であると考えられる。



調査担当: システム制御情報学研究室 中山 伊央 (提出年月日:2006年5月23日)