ホログラフィは空間に"光の像"を織り出すことができるもので、科学と芸術を融合したメディアアートとして注目されている。私たちの身近なところでもホログラムは使用されており、クレジットカードや各種の商品券に使われている。 それらをよく見ると、画像や数字が立体的に写っており、小さな模型がそこにはめ込まれているような感じを受ける。しかし、実際には画像や数字そのものではなく、その3次元情報が暗号化されて平面に記録されおり、そのため精巧にできたホログラムは複製が難しく、これが貼付されていれば本物であるという偽造防止用としてセキュリティに利用されている。 そのほかにもホログラフィーは、物体の形や極めて微小な変形量、また振動モードの測定、従来のレンズなどに代わる新しい機能をもつ光デバイスや、膨大な空間情報の記録・読み出し能力を利用したコンピューターの記憶素子などへの利用、さらにCT(コンピュータートモグラフ)などの平面画像から3次元画像を合成し、診断や手術に役立てる医用への利用など、広い分野で使われている。
ホログラフィの特徴をあげると以下のようになる。
少し視差の異なった2つの画像を右と左の眼で見ると、立体的に画像が浮き上がって見える。これがステレオグラムの原理である。これと同じ原理を利用したのがホログラフィックステレオグラムである。図2のように普通のカメラで視点を変えてたくさんの平面画像を多数撮影し、この一駒一駒を原画像として、縦に細長いホログラムを敷き詰めるように多数記録する。これをレーザーで再生すれば、左右の眼に視差の異なる画像が再生され、3次元的に見える。これがホログラフィックステレオグラムの原理である。
記録時に水平のスリットを使い、比較的重要度の低い縦方向の視差を犠牲にすることによって、白色光再生を可能にしたホログラムである。クレジットカードなどに付いているのはこのホログラムである。これは以下のようにして作製される。
図3(a)に示されるように通常2段階の工程により作製される。まず、記録したい物体のホログラムを作製する。これをマスターホログラムという。次に、このマスターホログラムを参照光と反対方向から照明して図のように像を再生する。このとき、ホログラムに水平のスリットを重ね、開口部(幅数mm)だけからの光で再生する。この光を物体光とし、参照光を加えて記録すれば、レインボーホログラムとなる。参照光は、干渉縞が水平になるように加える。
このホログラムを(b)のように参照光とは逆方向から白色光で再生すると、マスターホログラムの像が元の位置を中心に分光されて再生される。この位置に眼を置いて見れば、瞳の大きさは数mmであるため、眼に入るホログラムからの各点像に関する再生光の角度幅は小さく制限され、鮮明な像が見えることになる。
図4 マルチプレックスホログラム
図4にマルチプレックスホログラムの作製法を示す.原画の記録には通常(a)に示すようにカメラは固定しておき,回転テーブルの上に載っている被写体を回転させ,一回転分の原画を撮影する。動きのある被写体,たとえばダンスをしている人物などの撮影には映画用カメラが用いられる。ただし,ゆっくりした動きに限られる。動きが激しいと,右眼と左眼で大きく異なった像を見ることになり立体的には見えなくなる。
つぎに,(b)に示すように原画の一コマをレーザ光で照明し,レンズにより拡大投影する。像の位置に比較的焦点距離の長い球面レンズと,水平方向のみに集光作用のある焦点距離の短いシリンドリカルレンズを置く。このシリンドリカルレンズにより,フィルム上に垂直方向に長い線像がつくられるようになっている。この部分のみ光を通すスリットを置き,像ができている位置の上方から参照光を入れて細い要素ホログラムをつくる。球面レンズはシリンドリカルレンズとの組合せによりフィルムの後方に水平方向に長い線像を生じさせ,レインボーホログラムの場合のスリット像をつくる役目をする.つぎに原画を一コマ送り,それと同時にスリット幅の分だけフィルムを平行移動させ,次の要素ホログラムを記録する。この操作を順次行って1枚のホログラムができ上がる。これがマルチプレックスホログラムである。実際には,1mm程度のスリット幅に数個の要素ホログラムを少しずつ重ね合わせながら記録していく。
このホログラムを(c)に示すように記録時の原画の像とフィルムの間の間隔を半径とする円筒状にし,円筒中心線の上方から白色光源で照明する.レインボーポログラムの場合と同様に垂直方向に分光されたスリット像が再生され,この位置から眺めれば鮮明な再生像を円筒の中心に見ることができる.
参考文献
「ホログラフィ入門」〜原理と実際〜 久保田敏弘/著 朝倉書店
「ホログラフィー」 辻内順平/著 東京裳華房
久保田ホログラム工房