2007年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート
人間動作のモーションキャプチャ技術
モーションキャプチャ技術とは
モーションキャプチャ(motion capture)は、現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術である。
記録された情報は、スポーツ及びスポーツ医療の分野における選手たちの身体の動きのデータ収集などに利用されたり、
映画などのコンピュータアニメーションおよびゲームなどにおけるキャラクターの人間らしい動きの再現に利用される。
本レポートではカメラ撮影された人間の動きを対象にし、コンピュータに取り込み動画を解析する場合の
モーションキャプチャー技術について、簡単な解説を行う。
モーションキャプチャーの構成
- 2台以上のビデオカメラ
まず、モーションキャプチャーを行なうには最低2台以上のビデオカメラが必要である。
また、この2台以上のビデオカメラは、カメラ毎に独自周期の同期信号を同じくして動作させる必要があり、
通常、カメラ間での同期を合わせることが可能な、同一メーカー同一機種の業務用ビデオカメラを使用する。
カメラ2台で計測ポイントが隠れてしまう場合は、3台以上のカメラを使用する。
- カメラを固定するもの(三脚など)
撮影する場所を常設できない場合、或いは撮影する範囲が一定でない場合、三脚などの持ち運び可能なものを使用する。
- 画像入力ツール
カメラの映像をパソコンに取り込むために、一般的には画像入力ボードを使用する。
画像入力ボードはパソコンの拡張スロットに設置する。
取り込みを行う為のソフトも必要であり、通常は画像入力ボードに添付されている。
- 反射マーカー
被写体となる動体の計測したい各ポイントに付けるマーカーである。
一般的には反射シートを張った球状のものを使う
この反射マーカーにカメラの方向からライトを当てると、光が反射しマーカーが白く光って認識が行いやすくなり
この反射光の動きを取り込み計測する。色でマーカーを判別したい場合はカラーマーカーを使う。
カラーカメラでモーションキャプチャーを行う場合には使用可能である。
- ライト
被写体を明るく写す為だけでなく、反射マーカーを光らせる為にカメラの方向からライトを当てる。
カメラの方向からライトが当たると、反射マーカーの光はカメラの方向に帰って来るので、
映像の中でマーカーがピカッと光って白く写る。
- キャリブレーションツール
計測しようとする3次元の空間を2台以上のカメラから見た場合、どのようにカメラに写るのかを計測するためのツールである。
3次元計測空間の基準となるローカル座標を求めるためのものとなり、通常、マーカーを取り付けた棒状のものや、
大空間の場合はつり下げタイプ、30cm程度の小空間の場合はキュービック型などを用いる。
- 3次元座標計測ソフト
パソコンに取り込まれた画像から、マーカーを自動計測し、3次元座標値を求めるソフトである。
- 3次元解析ソフト
3次元座標計測ソフトで求められた3次元座標を元に、計測点の速度や距離などのデータを算出するソフトである。
解析ソフトには結果表示機能も含まれていて、人間の動く様子をアニメーション表示する事ができる。
3次元座標計測ソフトと一体型になっている場合が殆どである。
- コンピュータ
計測画像を取り込んだり、画像を計測、解析するためのパソコンが必要となる。
モーションキャプチャーの手順
- まず、計測したいものの「動く空間」を決め、範囲を決定する。
人間の歩行を計測したい場合や、立ち上がりやジャンプ等その場での動きを計測したい場合などで計測範囲は違ってくる。
計測したい動きが全て収まる範囲を決定する。
- 決めた範囲の四隅にキャリブレーションポールを立てる。
範囲を決めたら、その範囲を囲むようにキャリブレーションポールを垂直に設置する。
例えば左右方向に3m、前後方向に2m、高さ方向に2mの範囲を決めた場合、通常は床に2m×3mの4角形を
設定し4隅に印を付け、4隅の印の上にキャリブレーションポール2mを立てる。
- キャリブレーションが全て写る場所にカメラを設置する。
2台以上のカメラからキャリブレーションが全て写るように設置する。
キャリブレーションに付いているマーカーが重なって見えなくなっていないか、床から高さ2mのポールが全て
見えているかなど確認する。写らない場合はカメラの位置を移動させたり、カメラのレンズを交換したりして対応する必要がある。
また、実際の動きを撮影するときの事も想定し、計測したいマーカーが2台のカメラから見えなくならないように
カメラの角度も調整する。多くの場合2台のカメラを40度くらいの角度で設置する。あまり角度が狭くなると精度が悪くなり、
角度を広くしすぎると計測マーカーが隠れて見えなくなる場合が増える。
- キャリブレーションを撮影する。
カメラと、パソコンにセットした画像入力ツールが接続されている状態で画像をパソコンに取り込む。
2台以上のカメラからの映像を同時に取り込んで下さい。この後、絶対にカメラの位置を動かしたり、レンズのズーム倍率変更をしてはならない。
- 3次元計測ソフトで、キャリブレーションの精度を確認する
撮影されたキャリブレーション画像を使用して、3次元計測ソフトでキャリブレーションを行う。
通常キャリブレーションの精度が確認できるので、必要な精度が得られない場合は、
再度キャリブレーションポールの位置や撮影状態を確認する。
- 実際に計測したい動作を撮影すると同時にパソコンに画像を取り込む。
キャリブレーションの設定が全て終了したら、実際に計測したい動作の撮影を行う。
画像入力ツールを使い、撮影すると同時にパソコンに動作の映像を取り込む。カメラを動かさない状態で、
同じ範囲での動作は何度でも取り込んでおいて、後から解析する事が可能である。
- パソコンに取り込んだ画像を、3次元計測ソフトで解析する。
取り込まれた画像から、マーカーの動きを自動追跡し3次元位置座表を計測する。
マーカーが隠れる場合の隠れ点処理の設定や、隠れるマーカーを手動で計測する設定などがソフトには用意されている。
- 計測結果を出力する。
解析ソフト(結果表示ソフト)で計測結果をビジュアルに表示します。
人間の動きをアニメーション表示したり計測ポイントの座標値、速度、加速度、距離、など様々な計測データを数値やグラフで表示する。
モーションキャプチャー技術の分野別応用事例
- リハビリテーション分野で・・・
リハビリテーション分野で、歩行、イスからの立ち上がり、階段の上り下りなどの全身運動を計測し、
腰の角度や膝の曲がり角度、体の揺れなどのデータをリハビリ前とリハビリ後で比較。
- 運動工学の分野で・・・
野球のピッチャーの投球フォームやボールの初速、バッターのスイング
速度の変化や打球の速度などの解析。
- 農業で・・・
農業従事者の農作業時の姿勢解析、農場での行動解析や作業時間の観察。
- 統計情報として・・・
機械操作を行う労働者の手足の動きや頭の動きを計測し、集中力や疲労度の解析。
- ロボット工学の分野で・・・
ロボットの動きを人間の動きに近づける為に、様々な人間の動きを計測しロボットの動きで再現。
- 動作検証に・・・
機械制御されたロボットの動きを実際に撮影して計測し、指示した通りに動作しているかを検証。
- 建築分野で・・・
建築や土木作業の分野で、高い場所での作業、大きなものを持っての作業、強風が吹いている時の作業時の
バランスの取り方など、全身動作の解析。
モーションキャプチャー用語集キャリブレーションツール
- キャリブレーションツール
3次元計測空間のローカル座標を求めるためのツール。
DLT法の場合、6ポイント以上の機知の座標を設置する必要があり、
3m四方くらいの大空間の場合はつり下げタイプを使用する。
30cm程度の小空間の場合はキュービック型を使用する。
ダイナミックキャリブレーション用には、XYZの軸を決める為のツールと、
動画でマーカーの動きを撮影する為にマーカーの付けられた棒を使う。
- 反射マーカー、カラーマーカー
計測したい部分に付けるマーカーに反射シートを張ったもの。
カメラの方向からライトを当てると、カメラの方向に光が反射しマーカーが白く光る為、
マーカーの認識が行いやすくなる。色でマーカーを判別したい場合はカラーマーカーを使う。
- カメラの同期
カメラが通常動作する場合は、カメラ毎に独自の周期(同期信号)で動作している。
カメラを2台同時に撮影する場合、この周期をピッタリ一致させて2台のカメラの時間をピッタリと一致させる
必要が有る。このカメラ間の周期を合わせることは「カメラの同期を合わせる」と表現される。
- DLT法
Direct Linear Transformasion (ダイレクト リニア トランスフォーメ−ション)
計測したい空間が写るように複数のカメラを任意に設置し、キャリブレーションポイント(機知の3次元座標)を撮影した画像から
逆算して3次元座標を求める方法。
この方法の利点はカメラの設置に関する制約が少なく、特にフィールドでの撮影などにおいても正確な計測が可能であること等があげられる。
- カメラの内部・外部パラメータ
内部パラメータ:
カメラ(CCD)とレンズの組み合わせによって決まるパラメータ。
焦点距離係数、画像の角度係数、レンズの歪み係数などの事を言う。
外部パラメータ:
撮影したカメラの3次元上での設置情報。
撮影したカメラの被写体からの位置(x,y,z)、上下の角度(チルト)、左右の角度(パン)、回転の角度(ロール)を言う。
参考サイト:モーションキャプチャ実践入門ガイド
調査担当: システム基礎論研究室 氏家 啓介 (提出年月日:2007年6月4日)