2007年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート

ライフログで必要となる技術

ライフログとは

ライフログとは、人間の行い(life)をデジタルデータとして記録(log)に残すことである。

ライフログは、ユーザーの視点で言えば、個人ホームページやブログ(ウェブログ)へと 遷移してきた、個人の活動記録を記録する営みに通じるものであるといえる。 ライフログを研究している代表的なプロジェクトとしては、Microsoftが推進している 「MyLifeBits Project」がある。これは、パソコンを使用する際に行われる全ての操作・動作を 、後から追跡することを可能にし、これを追跡することによって過去の分析や追体験を可能にしようとするものである。 また、米国国防総省の研究機関であるDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)も 、2004年からライフログの研究を開始している。

ライフログを可能とする技術

まず現在実際に行われているweb blogに活用されるライフログについて紹介する。 また次に生活の一部ではなく、日常の全てを記録するライフログの研究について紹介する。

・KDDIとKDDI研究所が実験的に行っているプロジェクト「ライフログ」

ライフログは、身の回りにある物の情報をバーコードなどから読み取り、 それについての感想を書くなどしてブログに投稿するまでの一連の行動を携帯で完結できる仕組みである。

ペットボトルのお茶についているバーコードを携帯で読み取る

(a) ペットボトルのお茶についているバーコードを携帯で読み取る   (b) お茶に関する情報がブログにアップされた

 ライフログのブログに記録できるものは、人から商品、場所までさまざまで、 出会った人の名刺に印刷されていたQRコードや、気になった商品のバーコードなども読み取れる。 例えば、お茶のペットボトルに印刷されているバーコードを携帯のカメラで撮影して読み込むと、 商品名やメーカー、値段を表示する。将来的にRFIDタグを物につけるようになったら、 携帯電話にもRFIDリーダを搭載して読み込むことも想定している。

 GPS機能を持つ携帯電話なら、写真を撮ったときに撮影場所を特定できる。 その写真をライフログのブログにアップすると、近い場所で撮った別の写真をまとめて表示でき、 Googleマップを使って周辺の地図を表示することも可能になる。



(c) ライフログ。書籍の場合はAmazon.co.jpから表紙画像を表示する  (d) 建物のフロアマップ上の位置を確認する




・ウェアラブルライフログシステム(相澤・山崎研究室)

<ウェアラブル機器を用いた体験記録>
小型のカメラやマイクに加え,GPSやモーションセンサ等の各種センサを用いて日々の生活を常時記録する。 取得されたデータは非常に膨大になるため,効率的な映像の要約化や所望するシーンを探し出す高速な検索機能が必要となるため、 相澤・山崎研究室ではセンサ等からのコンテキスト情報と, 映像・音声処理による会話検出などのコンテンツ情報を融合して効率的にデータの処理を行う研究を行っている。 記録されたライフログ映像は,取得された各種データを元に独自開発した Viewer でイベントのフレーム表示や閲覧・検索を行うことができる。



<ユビキタス空間における日常記録>

床に圧力センサ,天上にカメラやマイクの設置されたユビキタスホーム内で, 実際に生活している様子を記録して人のいる位置を把握した上での記録映像の要約・閲覧, 家具や同居人とのインタラクションなどのイベントの検出を行うことができる。 また,こうしたユビキタス環境で取得されたセンサ情報や映像とウェアラブルシステムを 用いて取得されるデータを融合した協調的処理についても研究を行っている。

マルチカメラからのイベント要約



<車載環境でのライフログ>

ライフログシステムをドライブ映像に応用する研究について。 同じ経路を通ることの多い車載ビデオでは記録される映像中の街並みの変化検出を主眼においており、 これによって移ろいゆく街並みのデータベース構築や地図作製支援などが可能となる。 第一段階として,映像記録と同時に取得されるGPSによる位置情報に加え, 映像からエッジを抽出しそれを射影したものを特徴量として用いることで精度良く 同一地点で撮影されたものを検出できるようになった。


同一地点画像の検出例(左:クエリ 中:GPSのみ 右:GPS+画像特徴)



さらに高度なライフログのための技術

 日常の行動を映像として広範に記録しておくことで、行動全般を後でトレース可能とすることができる。 映像として保存したライフログを追体験するための出力装置としては、バーチャル・リアリティ(VR) で使われる「CABIN」のような没入型多面ディスプレイを利用した可視化が極めて有効である。

 CABINは、立方体の部屋の内壁をスクリーンとして利用し、入り口を除いた5面(正面、右、左、上、下) にソフトスクリーンが配置され、背面投影で映像が表示される。スクリーンの大きさは1辺約2.5メートル程度であり、 その部屋の内部に液晶シャッターゴーグルを装着した人間が入ると、スクリーンの映像は3次元画像として認識される。 センサーが頭の位置を検出しているため、視点を移せばそれに応じた映像が表示される。 CABINと似たような没入型システムとしてはクリスティ・デジタル・システムズの「HoloStage」などがある。

 CABINでは、5面のスクリーンそれぞれが映像を映し出し、また、立体視するためには右目と左目用に2つの画像が必要になるため、 CABINでVRを再生するには、カメラ10台程度が必要となる。これを踏まえて、DVD画質で一生分のライフログを取得する場合、 どの程度の容量になるのかを考えてみる。

 1層のDVD1枚(4.7Gバイト)に比較的高画質の映像を保存しようとすると、だいたい2時間程度の録画ができる。 10台のカメラの映像を記録するので、2時間で47Gバイト、1日(24時間)で564Gバイトとなる。 一生を80年間(2万9200日、70万800時間)と仮定し、計算を単純化するためにうるう年を考慮に入れなければ、 映像データの総量は約16.5ペタバイトとなる。ここで、1日8時間は睡眠時間と考え、 その時間を除けば約11ペタバイトにまで減らすことができる。さらに、画質を落としたり、 コーデックを変えたりすることで、その容量は1ペタバイト近くにまで減らせると思われるが、 その場合、もはやVRとしての利用には耐えられないだろうと考えられる。

またVRを実現するための出力装置は、没入型多面ディスプレイだけではない。 このほかにも、体に直接装着するヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)などがある。 超小型ディスプレイをメガネのように装着し、両目の視差を利用して立体的な視覚を得ようというのがHMDだ。

オリンパスが2001年に発表したHMD「Eye-Trek」。その後も進化を遂げ、さまざまな機能拡張が行われている(オリンパスのホームページより)



バーチャル・リアリティというと現実と区別がつかないほどの仮想空間を想像しがちだが、 現時点ではそこまでの精度を持つVRは存在していない。また、きゅう覚や味覚、触覚など、デジタル化が困難な要素も依然として多く残るため、 現在のVR研究の主流は、よりリアルに近づけるという方向ではなく、現実世界を基にして、 電子的な仮想データでこれを補う体験をさせる複合現実感(Mixed Reality:MR)と呼ばれる方向に向かっている。 没入型多面ディスプレイはHMDと比べ、広視野の映像空間を映し出せるなどのメリットはあるが、 現時点でライフログに適しているデバイスとしては、HMDに軍配が上がると思われる。

 HMDであれば、画面のサイズもQVGA(320×240ドット)程度で済むため、そのデータ量を大幅に減らすことができる。 ビットレートを調整したり、使用目的に応じた加工を行うことで、その総量を0.5ペタバイト、つまり500Tバイト程度まで抑えることが可能になる。

 100MバイトクラスのHDDが10万円程度だったのが1993年ごろ。それから約10年で、価格は10分の1、容量は1000倍になった。 仮に容量が同じペースで増加し続けるとすれば、現在、コンシューマー向けのPCに搭載される一般的な250GバイトのHDDが500Tバイト つまりその2000倍の容量を持つのは、約11年後と考えられる。もちろん、例えば就職から定年までなどのように限定した期間を記録するのなら、 あと数年もすればコンシューマー向けのPCに搭載されるHDDでもライフログが実現可能となるかもしれない。

<参考URL>
ライフログ (Lifelog)とは: - IT用語辞典バイナリ
ITmedia エンタープライズ:人生のやり直しが可能に? ライフログが紡ぐ未来 (1/2)
ITmedia Biz.ID:日常生活をなんでも記録「ライフログ」
相澤・山崎研究室 - 研究紹介・ライフログ -
調査担当: システム基礎論研究室 橋本 敦史 (提出年月日:2007年6月4日)