2007年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート
衣服のモデリングとシミュレーション
1.技術背景
衣服を始め、布に関する多くの表現を可能にするための技術としてクロスシミュレーションがある。これは、衣服を着たキャラクターの動きや風の影響による布の形状変化のシミュレーションを行ない、デザイナーが手付けで布のアニメーションをつける負担を軽減させるものである。最終的には、人間の皮膚を始め、あらゆる事象をシミュレーション可能にすることが目指されている。
クロスシミュレーションの基本的な考え方としては、メッシュを擬似的なバネのようなものでリンクさせ、伸縮制限を持たせることによって、布の伸縮・弾性を再現させる。この質感再現のために、技術者によって様々な計算方法が提案されている。
クロスシミュレーションが大々的に使用された最初の映画を挙げると、ネズミが主役のCG映画『スチュアート・リトル』がある。
2.衣服モデル
布モデルは、ポリゴンメッシュ、表面特性、力学特性の3つの要素から構成される。
2.1.布のメッシュ化
動力学シミュレーションを行うための布のモデル化手法としては、Breenらが提唱したパーティクルモデルが主流である。パーティクルモデルでは布の形状を連結した多角形の集合によって近似する。この多角形をポリゴン、連結した多角形の集合をポリゴンメッシュと呼ぶ。
ポリゴンは図1のような頂点、辺、面の3つの要素から成り、頂点は布上のある一点の空間的な位置を表し、辺は頂点間の関係を表現する。また、面は辺によって構成される閉領域である。ポリゴン同士が辺を共有しているとき、ポリゴンが連結していると言い、連結したポリゴンの集合がポリゴンメッシュである。
図1 ポリゴンメッシュ
2.2.布の力学特性
布の力学的特性を測定する方法として、KES法が広く用いられている。KES法では布の力学的特性を、引張特性、曲げ特性、せん断特性、圧縮特性、摩擦特性、ねじり特性などの組み合わせによって定量化する。パーティクルモデルによる布のモデル化手法では、布の力学特性のうち引張特性、曲げ特性、せん断特性(表1)について、ポリゴンメッシュを構成する頂点、辺、面の関係として表現することができる。
表1 KES法で用いられる布の力学特性
引張特性
布の両端をそれぞれ逆方向に引張ったときの、伸張率に対する布の引張応力特性。
曲げ特性
布を曲げたときに生じる応力モーメントの特性。
パーティクルモデルでは、曲げ特性は辺同士の成す角度に対するモーメントの関数として表現される。
せん断特性
せん断処理を行った時に、せん断角度に対して生じたせん断力の関係。
パーティクルモデルでは、せん断特性は辺の回転、すなわち面の変形に対する力の関数として表現される。
3.クロスシミュレータ「Syflex」
実際のCGの製作において用いられる代表的なクロスシミュレータとしてシリコンスタジオ社のSyflex(サイフレックス)がある。これは、スクウェアによる映画『ファイナルファンタジー』のプロジェクトでジェラール・バネル (Gerard Banel) が開発したクロスシミュレーションをさらに発展させたものであり、非常に高速で安定した動作を実現している。同様なクロスシミュレータとしてオートデスク社のエフェクトパッケージMayaがあるが、こちらでは布同士が反発して暴れるようなおかしなシミュレーション結果を出すことがある。
このようにSyflexは、ほかのクロスシミュレータには見られない、リアルスティックな布の動きを迅速に再現できる最新のクロスシミュレータであり、あらゆるオブジェクトの動作にも順応し、どんな布素材や衣服デザインでも自然なアニメーションを高速に再現することができる。その高速性はMaya nClothの計算速度の5倍にも及ぶ。
サンプルムービー
出展・参考文献
奈良先端科学技術大学院大学 電子図書館 学位論文一覧
(修士論文 衣服のサンプルベースド・モデリング手法の提案 大塚久尚)
http://library.naist.jp/library/thesis/ism2003_.html
wikipedia
http://ja.wikipedia.org/
シリコンスタジオ株式会社
http://www.siliconstudio.co.jp/
調査担当: システム変換学研究室 鈴木 実 (提出年月日:2007年5月7日)