近年、情報伝送技術の発達とロボット工学の進歩により、遠隔操作可能な手術用ロボットが開発された。
手術用ロボットはmaster-slave manipulatorであり、master-slave manipulatorとは、
操縦者が機械の指令側部分(master部)を操縦することにより、被指令側部分(slave部)
を随意に操縦して、目的の作業を行うロボットである。米国Intuitive Surgical社の開発した
da Vinci(図1参照)は、先端部分に二つの回転可能な関節を持つ特殊な鉗子を用い、人の手首の上下および
左右方向の柔軟な動きを模倣することができる7自由度のシステムで、術者の手指の動作に大きく
近づけた画期的なシステムである。術者の動作に対するロボットの動きの縮小割合を自由に設定可能
であり(scaling機能)、しかも術者の生理的振動がロボットの動きでは消失するため(filtering機能)、
縫合・結紮などの微細な手術操作は、直視下に行うよりも容易となる。さらに、高性能な三次元ビジョン・
システムが装備されており、異なる光学系チャンネルを持つ二つの3チップカメラより収集された画像は、
高分解能双眼画面として融合され、ゴーグルやヘッドセットの装着を要することなく術者に自然かつ
高画質な三次元術野像を提供する。
システムは、(1)患者のいる手術室にあたるサージェリ・サイト、(2)医師が機械を操作するオペレーション・ルーム、
そして、(3)インターネットで両者をつなぐコミュニケーション・システムから成っている(図2参照)。
サージェリ・サイトには顕微鏡が装備され、その画像はオペレーション・ルームの手術者に液晶ディスプレイ
で映し出される。手術者が、その画像を見ながら手元のマスタ・マニピュレータを操作すると、サージェリ・サイト
にある、鉗子や鑷子を装着して医師の手の代わりとなるスレーブ・マニピュレータが動いて目的となる動作を行う。
このようなロボットを用いたシステムは、遠隔地のほかに、遺伝子・ナノテクノロジーなどの微小世界、
災害の現場などの危険・高温・真空の特殊環境といった、人間が入り込めない「超環境」での作業に
ますます必要になると予想されている。その際必要とされるのは、第一に、作業を行う手あるいは
移動する足という「作業機能」、第二に、作業の状況や周囲の環境を知覚する「センサ機能」、
第三に、知覚情報によって次の行動を判断する「知的機能」、さらに作業の情報を人間に戻したり、
人の指示・サポートを受けるための「情報連絡機能」である。
大杉伸也、橋爪誠、伊関洋、土肥健純、波多伸彦、画像管理および音声画像通信機能を備えた外科手術遠隔
支援ディスプレイシステムの開発を参考に、遠隔支援システムのための方法を説明する。
遠隔システムの問題点は、通信を伝わる際のタイム・ラグである。このタイム・ラグの存在のために、
制御系が不安定になり、機械が壊れてしまう場合がある。患者の安全と機械の破損を防ぐため、
ハードウェア的な「フェイル・セイフ機構」がスレーブ・マニピュレータに組み込まれ、一定以上の
荷重が加えられた時は、安全な方向に待避し、システム全体を停止させるようになっている。
また、タイム・ラグを補う仕組みの一つとして、ジョイスティックの動きから加工の状態を予測して
(実際にはまだ加工される前に)画像に表示する仕組みが考案された。また正しく加工されているかどうか
判断するためには音の情報が重要である。そのため、加工で生じる力を音に変換して操作者に伝える仕組みが
つくられた。これも実際の加工現場の音ではなく、生じる力から予想される加工音を提示する。
また、操作者に触覚を伝えるためには、ジョイスティックの中にモーターを取り付け、加工状態が振動として
操作者に伝わる。