2007年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート

8.3次元立体音場の生成技術


3次元立体音場とは?

3次元立体音場とは、スピーカーを複数台用いるなどして音に広がりを持たせ、立体的に聞こえる効果を施す技術のことである。いわば音の3次元処理といえる。 もともとは映画の音響技術から生まれ、コンピューターやゲームにも利用されているものである。音を左右に広げるだけでなく、上下や前後に移動させることもできる。3次元立体音場をパソコンで再生するには、専用のハードウェア(サウンドカード)やソフトウェアが必要となる。

5.1サラウンド

5.1サラウンドは、映画のデジタル化によって従来のマトリックス方式(ドルビーサラウンド)にかわって提案された方式で、前方3チャンネル、後方2チャンネルの5チャンネルに加えて低音補強用のチャンネル(これを0.1チャンネルと数える)を備えている。この方式は DVDでも採用されており、家庭でも簡単に映画館と同等の音響で楽しむことができるようになっている。  


5.1サラウンド

5.1サラウンドはこれまで慣れ親しんだ2chステレオと比べて下記の点が優れている。

  1. センタースピーカーの存在によって、視聴位置がセンターをずれても定位がハッキリしている。
  2. 後方のスピーカーを用いることで、前後の拡がり感、定位感を表現できる。
  3. 低音補強チャンネル(LFE)によって、より迫力のある音が表現できる。
「5.1chサラウンド」と言ってもいくつかの方式があり、代表的な方式と各特徴を紹介する。

ドルビーデジタル

映画館でも用いられ、DVDソフトでは標準で収録する事になっている。

一般的な5.1chサラウンドシステムでは、このドルビーデジタルの再生が可能である。

DTS

DVDソフトでは、オプションとして扱われている。(DTSの収録は、製作者が決定できる)

ドルビーデジタルよりも情報量が多いので、音質的には優れた方式といえる。

一般的な5.1chサラウンドシステムでは、この『DTS』を再生出来ないモノもあり、DTSを楽しみたい場合は注意が必要である。

*音楽だけの、DTS CDも有る。

*映画館でも良く利用される。

MPEG-2 AAC

単に『AAC』とも呼ばれる。

日本のデジタル放送で用いられるサラウンド方式である。 地上デジタル放送でも採用が決定している。

しかしながら,これらのシステムは,例えば受聴者の後方から音源を提示するような方向定位性の再現を主な目的としており,複雑な音空間を忠実に再現するような用途には十分ではない。さらにモバイル環境下では,このような多数のスピーカを持ち歩くことは現実的ではなく,移動通信への直接的な適用は難しい。

バイノーラル再生技術

人間は目を閉じていても音の到来方向をかなりの精度で推定することができる。音源が左右の耳に到達する時間差や音圧差を知覚することにより、音源aの到来方向を推定することが可能となる。音源bは同じ到来時間差を持つが、音源から鼓膜までの音響伝送路の周波数応答が耳介(耳たぶ)の影響により異なるため、経験的に前方/後方を区別することができると考えられている。この原理を利用し、ヘッドホンで左右の耳に別々の音響信号を与えることで、実際にその場にいるのと同じ音環境を再現するのがバイノーラル再生技術である。通常のステレオ録音された音楽をヘッドホンで再生すると、音が頭の中で鳴っているように感じる。これを「頭内音像定位」と呼ぶ。これに対し、バイノーラル再生技術を利用した音をヘッドホンで再生すると、あたかもその音源の場所から音が鳴っているかのように自然に聞こえ、ヘッドホン再生にもかかわらず外部から音が聞こえてくるように感じる「頭外音像定位」が可能となる。

  • バイノーラル録音

    実際の環境で受聴者の左右の耳に到達する音を忠実に再現する手法として、擬似頭(ダミーヘッド)の左右の耳に取り付けたマイクロホンで音を収録し、その音をヘッドホンで再生する方法が用いられる。臨場感が重視されるクラシック音楽やオーディオドラマといったジャンルを中心に、ヘッドホン再生を前提としたバイノーラル録音のCDも数多く発売されている。


    バイノーラル再生系

  • シミュレーションによるバイノーラル再生

    バイノーラル再生を実現するもう1つの手法として、音源から人間の左右の耳までの音の伝わり方を表す頭部伝達関数(HRTF:Head Related Transfer Function)をあらかじめ測定しておき、シミュレーションによりバイノーラル信号を生成する方法がある。測定したHRTFの例を図に示す。


    頭部伝達関数

    伝達関数の係数列は、インパルス波形を音源とした場合の、左右の耳に到達する音響波形となる。左右のHRTF間に見られる時間差(ITD:Interaural Time Difference)と振幅差(IID:Interaural Intensity Difference)という、人間が実環境の中で音源の方向知覚を得る主要な手がかりがHRTFとして表現されていることが分かる。いったんこのインパルス応答フィルタを測定しておけば、任意の音源波形との畳み込み演算を行うことで、シミュレーションによりバイノーラル信号の生成が可能となる。レイク・テクノロジー社が開発しドルビー社がライセンス供与しているドルビーヘッドフォンは、HRTFの畳み込み信号処理により、通常のステレオヘッドホンでサラウンド音響を再現するシステムである。ホームシアター製品だけでなく、PCやポータブルMDプレーヤにも搭載されており、DVDなどの5.1チャネルサラウンド再生を手軽に体験することができる。

  • ヘッドトラッキング機能付きバイノーラル再生

    バイノーラル再生技術によりヘッドホン再生においても頭外音像定位が可能であるが、これだけでは頭を動かすとその音像も一緒に動くという、自然界ではあり得ない状況が起こる。これに対し、頭の動きに追従するヘッドトラッキング機能を用いれば、より自然で違和感のない音場を再現することができる。受聴者の頭の向きをフィードバックし、HRTFフィルタを適応的に逐次更新することにより、原理的にはその場にいるのと全く同じ音響空間を創出することができる。人間は両耳情報の動的な変化からも音像情報を得ていると考えられるので、頭の動きをフィードバックすることによって方向知覚がより正確になるため、バーチャル音響を用いたアプリケーションを構築する上での大きな助けになると期待できる。このヘッドトラック技術が実用化された例としては、Sony社のデジタルサラウンドヘッドホンシステムがある。頭を動かしてもサラウンドの音場が固定されているが、センサのドリフト/精度、計算量の制限から生じるHRTF精度の問題などがあり、まだ、この技術が広く使われるようには至っていない。


    調査担当: システム制御情報学研究室 進 泰彰 (提出年月日:2007年5月7日)