2006年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート

14. 没入型仮想空間


近年、CG(コンピューターグラフィックス)における3D画像の技術が格段に進化してきており、 今日の快適な生活に欠かすことの出来ない重要な要素となりつつある。その中でこのページでは「没入型仮想空間」 というものについて説明したいと思う。

まず、「没入」という聞きなれない言葉について説明させていただくと、 三省堂出版の「大辞林 第二版」ではこのように書かれている。

    「没入」ぼつにゅう
  1. すっかり沈み入ること。
    「黒暗(くらやみ)の水の中に―して/露団々(露伴)」
  2. 没頭すること。もつにゅう。
    「研究に―する」
今回の場合、2.の「没頭する」、 すなわち「他の事をかえりみず、一つの事だけに熱中すること」という意味で使われることになる。 テレビゲームに夢中になって何時間もしてしまい、親にしこたま怒られるということも、 「仮想世界(ヴァーチャルリアリティ)に没入してしまった」といえるであろう。 3Dにおける仮想空間を利用する際に、仮想世界に「没入」しすぎて現実世界に支障をきたしてしまうという話はよく聞くものであり、 現代社会の問題の一つに挙げられるものだといえるだろう。だがしかし、そこまでリアリティの高い仮想世界を利用することによって、 今までには出来なかった体感シミュレーションやより精密な遠隔操作など、多くの恩恵が得られることも事実である。

「没入型仮想空間」とは、3Dの画像を表示して、それを画面越しに見るだけの従来の仮想空間でなく、 入出力の観点から実際に仮想空間に入り込んでいる感覚を味わうことができる新たな仮想空間のことを言う。

つい最近までは、「没入型仮想空間」はどちらかといえばSFの世界のほうがなじみのあるものだった。 たとえば映画「マトリックス」では、 プラグを後頭部に突き刺し、壮大な仮想空間である「マトリックス」へ移動することで、現実となんだ変わらない体験を 行い、生活を送っている様子が描かれている。人類の大半が生まれてからずっと仮想世界の中で生活をし、現実の世界では眠り続けた ままで一生を終えるという設定になっており、最も有名で究極の形である「没入型仮想空間」の一つにあげることが出来る。


近年はさまざまな方面での研究が進んでおり「マトリックス」ほどではないにしろ、より現実に近い体験ができる、まるで自分が 仮想世界の中に入り込んだように思えるような「没入型仮想空間」のシステムが次々に開発されている。SFの世界だけであったもの が現実のものになりつつある。

今開発されている「没入型仮想空間」は仮想世界の出力方法によって大きく二種に分類できる。 まず一つには、H.M.D. (Head Mounted Display)を利用したシステムである。ゴーグルやヘルメットのような形状をした表示装置であり、 頭部に装着すると左右の目のすぐ前に画面が一つずつセットされる。現在市販されている物の多くは、スペースを必要とせずに 大画面が体感できるディスプレイとして利用されており、バーチャルリアリティ装置としての側面を持たずに使用されている。 しかし、単に画像を表示するだけでなく、左右のディスプレイに少しずつ違った映像を表示することで 立体感を表現することができ、装着者の頭の移動に応じて画面を変化させることで、まるで仮想空間に入ったかのような視界を 提供するなど、バーチャルリアリティのための装置として研究・実用化が進められている。


市販されているH.M.D
H.M.Dによる「没入型仮想空間」の研究は早い時点で始められ、長い間進んできたが、 実際には視野角がそれ程大きくなく、画像の解像度も低いため、思ったほど効果が得られない上に、 装着の手間は避けられないといった欠点があった。そのような問題点を解決するための新たなシステムとしてCAVEを 利用したシステムの開発、研究が進められている。CAVE(Cave Automatic Virtual Environment、Caveとは「洞窟」の意) は1991年に米国イリノイ大学で考え出されたVRシステムで、立方体の部屋の、前方および左右の壁面に設置 された大型スクリーンに背面から映像を投影し、更に頭上前方から床面に映像を投影するものである。 このため体験者は立方体の6面の壁のうち4面に映し出される立体映像で取り囲まれる形となり、 仮想空間への十分な没入感を得ることができる。しかし、複数の大スクリーンやそれを制御するコンピュータなど 大量の機材を必要とするため、コストの増大が大きな問題点として上げられる。


CAVEシステムの主な例
上記のような仮想世界の出力システムに、手の動きを入力したり擬似的に触覚を与える手袋上のデータグローブや 体をすっぽり包み込む衣服状の入出力装置データスーツなどを組み合わせることによって、より現実に近い仮想空間を体験できる 「没入型仮想空間」の開発研究が進められている。現在はゲーム機などのエンターテイメントを対象とした物が主流であるが、 乗り物の運転シミュレーションや、将来的には医療の遠隔治療などにも役立つシステムとして注目を集めている。

参考H.P.
中京大学情報工学部情報メディア工学部
宮崎・山田・遠藤 合同研究室 オープンメディアラボ
http://www.om.sist.chukyo-u.ac.jp/main/


調査担当: システム統合学研究室 真鍋 勇介 (提出年月日:2006年8月7日)