2007年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート

ボリュームレンダリングの技術


 近年、コンピュータの高性能化に伴い発展し注目されている画像表示技術の1つに『ボリュームレンダリング』がある。主に医療分野や流体解析の分野で利用されており、今後その活用性は更に増大していくものと推測される。ここでは、ボリュームレンダリングの概要について説明する。


1.レンダリングとは

 ある物体を3次元グラフィックスとして画像化する際はポリゴンを使用し、それらの組み合わせによって物体の形状を再現するのが一般的である。更に物体表面の細かな色や質感を描画することで、実物とそっくりの画像をコンピュータ上に表現する(図1)。この描画作業を『レンダリング』と呼ぶ。物体表面への描画手法であることを強調して『サーフェスレンダリング』と呼ぶこともある。



図1 レンダリング


2.ボリュームレンダリングとは

 ポリゴンを土台とし物体表面の様子を描画により再現する手法とは異なり、ボリュームレンダリングでは物体内部の3次元格子データを3次元グラフィックス化して表現する。以下にその手法を説明する。

 まず、物体を3次元格子状に分割する。このとき分割された1つ1つの立体を、2次元画像における『ピクセル』と対応させて『ボクセル』と呼ぶ。ボクセルへの分割の回数が多いほど表現する物体がよりリアルに再現できる。また、1つ1つのボクセル内には数値データ(ボリュームデータ)が存在する(図2)。CTスキャンの例(後述)ではX線の吸収量が、大気の流体解析では空間内の水蒸気量などがボリュームデータに該当する。



図2 ボクセルとボリュームデータ


 次に、ある視線(ray:レイ)から見たときに、視線を貫くボクセル全てに含まれるボリュームデータの数値を合計する。このように視線に沿ってボリュームデータを追跡する方法を『レイキャスティング』と呼ぶ(図3)。なお、ここでは単に視線を貫くボクセルのみを考えるのではなく、周辺に隣接しているボクセル内のボリュームデータも考慮し、結果として得られる画像に連続性を持たせるように補正する作業も行う。



図3 レイキャスティング


 そして、レイキャスティングによって得られたデータを処理し、それを3次元空間上に表現する。
 この手法により空間内の物質の密度分布を3次元的に再現することができるようになり、外面からは把握できない物体内部の構造の様子や微粒子の濃度分布の表示なども可能になる。画像の精度を向上させるにはより高性能なコンピュータによる計算が必要であるが、近年では大容量でかつ高速な計算機も普及し各方面でこの技術が利用され始めている。


3.ボリュームレンダリングの活用例

 ボリュームレンダリングは物体内のあるデータの密度分布を3次元的に表現可能なことから、人体を対象とした医療現場において活用されている。
 X線によるCTスキャンでは、人体の断面の様子を撮影する。対象の位置を移動させてスキャンを繰り返すことにより人体の内部をボクセルで表現することができ、ボリュームレンダリング技術によって人体を傷つけることなく内部を3次元表示することが可能になる。PET(ポジトロン断層法)との併用により体内のがん細胞の3次元分布を表示することも可能で(図4)、がん患者の体内に潜むがん細胞の進行の様子を把握するなど現在の医療技術には欠かすことのできないものとなりつつある。


      

図4 脳の断面(左)と肺がん細胞の様子(右)


 また、物質を半透明な状態で3次元表示できることから雲などの立体構造の表示にも適している。地球シミュレータセンターでは、『地球シミュレータ』を用いて地球の大気などに関する大規模で高度なシミュレーションを行っている。地球シミュレータにより得られた解析結果をボリュームレンダリング技術によって可視化することで、あたかも地球の大気そのものが存在するかのように現実感のある3次元画像を表現することが可能になっている(図5)。これは未来の気象情報の3次元表示にも適用できる。



図5 ボリュームレンダリング技術による雲の可視化


 上記の例からも理解できるように、ボリュームレンダリング技術は我々がより豊かな生活を営むためには必要不可欠となる重要な技術であると言える。近い将来には至る場所でこの技術が利用された製品やシステムが登場するものと想像される。


参考・引用元Webサイト

Haniwa Modeler & Renderer Homepage
画像加工広場
医用画像三次元作成のコツが、たった1時間でわかったような気になるホームページ
地球シミュレータセンター


調査担当: システム共創情報学研究室 枝川 晃一 (提出年月日:2007年8月7日)