成績評価法について


講義を担当していて,いつも悩むのは成績の 評価の方法です.その中で特に扱いに困るの が出席をどのように評価するか,という 問題です. 出席に関わるいくつかの考えなどをすこし 書いて行きたいと思います.

【主張1】学生には授業に出席してもらいたい
これは大部分の教官はそう思っていると思います.閑散としている 教室よりも,学生がたくさん出席している教室の方が講義をしていて 張り合いがあります.また,教育のパフォーマンス面から見ても, 同じ講義内容であるならば, 講義の聴講者数が多い方が,教育に対する貢献度が高くなります.

【主張2】うるさい学生には講義に出てもらいたくない
これも大部分の教官の意見でしょう.真面目に講義を聴いている 学生の迷惑ですし,何よりも教官にとって不愉快です. 講義中寝ている学生に対しては,無害であるからほっておけばよろしい, という考えて,講義の場で寝るなどと言うのはけしからん,という 考えがあると思います.

【設問1】学生は講義にでるべきか?
これは大きな設問です.考え方は大きく3つあると思います.すなわち,
  1. 大学に在籍している以上, 受講する講義に出席するのは当然の義務である.<義務主義>
  2. 結果としてある科目に対する知識があればよいので,試験に合格すれば 出席の有無は問わない.<結果主義>
  3. 講義の出席は義務ではないが,必要な知識を身につける上での 効率的でかつ効果的な手段・過程が講義であるので,講義には出席する ことが(学生のためにも)望ましい.<過程主義>
どの主義に立つかにより,考え方が変わります. また,演習や実験などは出席をしないことには知識の獲得ができない, という前提に立っていますから,必然,義務主義になります.
私は,個人的には過程主義に近いように思います.

【設問2】講義で出席はとるべきか?
これも難しい設問です.上述の義務主義に立脚する 場合には出席をとることは必然となります. 結果主義では不要でしょう.過程主義的立場では 出席の扱いが悩むところです. 出席をとり,かつそれを評価に用いることのメリットは, ということがありますが,その一方で, というデメリットもあります.

以上のもろもろの事柄を総合して,大阪大学時代より,私は 学部の講義の成績評価では次のような ものを採用しています.

  1. 座席見取図出席集計
  2. 出席傾斜評価
  3. イエローカード制

最初の座席見取り出席集計とは,講義を行う教室の 椅子の配置図を作り,それを教室に回して,学生に 自分の着席している場所に署名してもらうもの です.名前を点呼する時間を省くことができますし, 教壇から見回して座席表と比較することで,代筆,途中退席も 分かります.また,座席表をつかうことで,学生を 名指しで指名したり,後述のイエローカード制を的確に運用できます.

出席傾斜評価は,出席回数に応じて成績に加味するものです. 具体的には,次のような式を用いています.

成績評価 =(1 - a/100 × 出席回数)× 素点 + a×出席回数
aは講義1回当たりの出席点です.例えば,a=2としますと,15回の講義を すべて出席すると出席点として30点がもらえます.その場合には, 試験は100点満点 を70点満点に換算して出席点と合計することになります. ですから,単位がもらえる最低ラインの60点を取るには,素点で 43点をとればよいことになります.講義に1度も出席をして いない学生は素点で60点必要です.

この評価方式は,上記の成績の主義に関して,結果主義と過程主義の 間にあります.すなわち,1度も講義に出席していなくても, 単位を取得することはできます.また,講義に真面目に出ていた 学生の試験での失敗も救済したい,という気持ちも働いています. 下に大阪大学で実施した98年度の生産工学での出席回数と素点の分布を 示しています(サンプル数119名).正の相関がかなり弱いところが 残念なところでもあります.

グラフ:98年度生産工学出席回数−試験素点分布図(大阪大学)

最後に,出席点欲しさだけで講義に出席し,他の学生の聴講の 邪魔になる学生をいかに押さえるか,ということが問題になり ます.私は「イエローカード制」と呼ぶものを導入しています. これは,講義の障害となっている行為(私語,飲食等)をしている 学生を,座席表の氏名との対応を確認した上で,イエローカード の申し渡しをし,それが累積3枚になった時点で,学期末試験の 受験を認めない(あるいは採点しない),というものです. これまでのところ,この制度によって受験資格剥奪になった 事例はありませんが,学生には,「講義に出て 真面目に受講できる自信がない人は,なまじ 講義に出てイエローカードをもらうより, 自宅で独学で勉強して単位取得を目指す方が得策である」 といってあります.

現状のところ,こうした評価法は学生にも好評で,概ね成功しているように 思いますが, まだまだ改善の余地は残っているようです.


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