2006年度 システム情報科学特別演習(イントロダクトリセミナー)関連技術調査レポート

マルチカメラによるモーションキャプチャの原理


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概要

モーションキャプチャ(motion capture, mocap)とは, 現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術のことです[1]. 主な場合では,人物の動きを,その人物につけたマーカの動きとして捕らえます. 顔の表情の動きを捉えたいならば顔にマーカを,体全体の動きを捉えたいならば体全体にマーカをつけます. 高性能の機材をそろえれば,顔の表情,体全体の動き,手足の動きなどを全部まとめて捉えることができます.
モーションキャプチャは初め,生体工学の解析ツールとして開発されましたが, 教育,訓練,スポーツの分野,最近では映画やテレビゲームの分野でも広く用いられるようになりました.
モーションキャプチャの方式としては光学式,機械式,磁気式などがありますが, 今回は主に用いられている光学式のモーションキャプチャについて解説します.

原理

以下ではモーションキャプチャの手順を示すことで,モーションキャプチャの原理を説明します.

@ まず,3DCGの動きのもととなる俳優の演技を複数台のデジタルビデオカメラで撮影します. 具体的には図1のようになります.

図1 複数台のデジタルビデオカメラによる俳優の撮影
撮影する際の注意としては, といった点が,上げられます.


A 次に,専用のソフトウエアを用いて,デジタルビデオカメラで撮影した映像からマーカの座標を抽出し,マーカの3次元空間上の位置を推定します.この作業で得られた3次元データは市販されているMaya, 3D Studio Maxといったコンピュータアニメーションソフトで加工することができます.

モーションキャプチャで用いるデジタルビデオカメラの位置は正確に把握されていないといけないか?

モーションキャプチャは普通,専用のスタジオで行われます.その場合は何らかの手段を用いてカメラの位置を正確に測定することはそれほど困難ではありません.しかし,モーションキャプチャ用の映像と映画などで実際に映像として用いる画像を一緒に撮りたい場合があります.そのような場合にカメラの正確な位置を測定するのは映画の工数から考えてあまり望ましいこととはいえません.
 そこでここでは,デジタルビデオカメラの位置が正確に把握できない場合にもモーションキャプチャが使えるかどうかを検証していきます.N機のカメラでM点のマーカを計測する場合を考えます.画像認識工学によればカメラは1つの座標系と焦点パラメータを持ち,そのカメラの座標系ないの平面(たとえばxy平面)と,マーカと焦点を結んだ直線の交点がカメラで捕らえたマーカの位置となるので,
   マーカの3次元位置とカメラ座標を把握するために使うことができる変数の数は, 2mn 個,
   カメラはみな同一の性能であり,カメラの焦点距離も未知であるとすれば,求める変数の数は, 3n+9(m-1)+1 個
となります.ただし,ここでカメラのうちの1つを主座標系としています.この場合,3機のカメラであればマーカ10個以上でわかっている変数のほうがわからない変数よりも多くなるので一概に推定できないとは断定することはできません.ところが次のような困難がカメラ座標推定を困難にしています. 図2をご覧ください.


図2 同一座標系内に存在する被写体とカメラ
この図において,同一空間内の小さい人を近くで観測した場合と,大きな人を遠くで観測した場合で, カメラの映像としては同一のものができあがります.このことは,わかっている変数からわかっていない変数を一意的に求めることができないということを示しています.
 では,この事態を解決する手立てはあるのでしょうか.実はそれに対しては2つのアプローチがあります. 1つはカメラのうちのどれか2つを剛体で拘束することで2つのカメラ間の相対位置を固定する方法です. もちろんその2つのカメラ間の距離は既知とします.こうすることで座標系内に長さの基準ができるので解の一意性を保証することができます.2つめは光学式と他の方式を組み合わせて使う方法です.たとえば俳優に加速度センサをつけることで解の一意性を確保できるそうです.いづれにしろカメラ座標がわかっている場合に比べて複雑で使い勝手は悪くなりますが,いろいろに応用が利くことはまちがいないです.

モーションキャプチャの利点,欠点

ここではモーションキャプチャの利点と欠点についてあげたいと思います.

利点
欠点

おわりに

モーションキャプチャ技術はいろいろな分野に適用でき,また,人の心をわくわくさせるような技術であります.最近行われている研究では,より安価なシステムでモーションキャプチャを実現する試み[3]や,また,マーカを用いないモーションキャプチャなども考えられています[4][5].

参考ページ等

[1] 日本語版Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%97%E3%83%81%E3%83%A3
[2] 英語版Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Motion_capture
[3] 安本らによる安価なモーションキャプチャシステムの研究
http://www.ipa.go.jp/NBP/14nendo/14youth/mdata/2-13.htm
[4] 岡田らによるマーカを用いないモーションキャプチャの研究
http://svr-www.eng.cam.ac.uk/~bdrs2/papers/okada_IEIE.pdf
[5] マーカ,センサを用いないモーションキャプチャの紹介
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/coe/coenews3/text3.pdf

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調査担当: システム基礎論研究室 廣瀬 佳典 (提出年月日:2006年6月27日)