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災害用係留型情報気球 InfoBalloonの開発

北海道大学 システム環境情報学研究室 小野里雅彦
最終改訂日 2015年6月29日

 

InfoBalloonとは

着想のきっかけ
  〜被災地の情報疎外〜

InfoBalloonを作ろうと考えたのは,1995年1月17日早朝に 発生した阪神・淡路大震災がきっかけです.当時,神戸市東灘区 に住んでいて被災しました.地震の直後から多くの報道機関など のヘリコプタが飛来して空撮映像を撮影していきました. ただし,その映像は全国の茶の間にいる視聴者が主な対象で, 実際に災害に直面している被災者のためのものではありませんでした. なぜなら,ほとんどの被災者は家が倒壊したり,停電のため, テレビを見ることができませんでしたし,仮に見れたとしても, 自分の住む場所が 映るかどうかわからない映像をテレビの前で待つ余裕はありませんでした.

その上,報道用のヘリコプタは被災者にとっては ”余計なもの”でした.ローターの発生する大きな 音は,がれきの中から助けを求める声をかき消してしまい ましたし,被災者に大きなストレスを与えました.そして, 何より,危険に向き合い不安な気持ちでいる自分たちが,報道と いう名のもとに,”観察の対象”となっているということに 疎外感を感じました.

被災者が必要とする情報は,被災地で被災者自らで獲得し,共有する しかない,ということが,この震災での私の強い実感でした.




  
(財)消防科学総合センター災害写真データベース
 
現代版火の見櫓を
  〜確かな非常時の情報拠点〜

かつての集落(地域共同体)の中心部には,火の見櫓が設けられていました. 火の見櫓にのぼると集落の様子を見渡すことが出来ました.また,火の見櫓に 取り付けられた半鐘を打ち鳴らすことで,火事や非常の事態を周辺の住民に伝えることが できました.火の見櫓は地域共同体で暮らす人々の安全の要として長く使われて きました.

ところが,現代の社会の市街地ではほとんどの火の見櫓は姿を消してしまいました. 高いビルが立ち並ぶ市街地では,火の見櫓の上にのぼっても周辺を見渡すことが できませんし,騒音の溢れる街中では半鐘の音も遠くには届かないでしょう.

現代の社会では火の見櫓に取って代わって大規模な情報通信システムが地域 共同体の安全を見守っています.それでは火の見櫓は現代にはもはや不要になって しまったのでしょうか.私はそうは考えていません.激しい災害が地域共同体 に襲いかかった時,先進技術を使った情報通信システムは意外な脆さを露呈します. 電源がない,通信回線が使えない,そして何よりも, 自分の身一つで避難してきた人々が情報を得るすべがない.... そうした時に被災者が最後に頼ることのできるもの,それを現代版の火の見櫓として 地域共同体に再構築したい,それがInfoBalloon Projectを始めた動機です.



  
伝統的な火の見櫓
 
InfoBalloonとは
  〜気球による被災地情報サービス〜

現代の火の見櫓をどう実現するか.その問題に対して私は気球を使って実現しようと 考えました. 阪神淡路大震災の翌年,1996年のことです. 気球にも色々な種類がありますが,その中で採用したのがヘリウムガスを入れた気球を地上にロープでつなぎ止めて使用する係留型の ヘリウムガス気球です.

係留気球は上空の同じ場所に長時間留まっていることができるので,被災地域の監視や通信の中継などの用途に向いています. しかしながら係留気球で現代の火の見櫓を実現しようとすると,多くの問題に直面します. 時間が経つとヘリウムガスが抜けてしまう, 風が強く吹くと係留高度が下がってしまう, 気球が大きい割にあまり機材が搭載できない, 気球に搭載する機材の電源がない,などの問題です.

こうした問題をひとつずつ,地道に解決をしながら開発を進めているのが, 災害用係留型情報気球InfoBalloonです.InfoBalloonという名称はInformationとBalloon をつないで私が1997年頃に作った造語です.


  
InfoBalloonのあがる街のイメージ図
 
 【問い合わせ先】
  小野里雅彦 (TEL/FAX 011-706-6435,E-mail onosato(at)ssi.ist.hokudai.ac.jp)
北海道大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻 システム環境情報学研究室
Digital Systems and Environments, Division of Systems Science and Informationcs,Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University
  〒060-0814 札幌市北区北14条西9丁目  N14W9, Sapporo, 060-0814, Japan   URL: http://dse.ssi.ist.hokudai.ac.jp