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災害用係留型情報気球 InfoBalloonの開発

北海道大学 システム環境情報学研究室 小野里雅彦
最終改訂日 2015年6月29日

 

InfoBalloonの構成・構造

InfoBalloonの三大特徴
  〜長期安定係留のための工夫〜

皆さんは係留気球というと,アドバルーンを思い浮かべるかもしれません. アドバルーンは古くから主に広告の分野で使われてきましたが,被災地で 長期間使用するには色々な問題があります.私たちはアドバルーンとは違った 新しい係留気球の姿を模索して,現在のInfoBalloonの仕組みを作ってきました.

InfoBalloonの特徴は大きく3つあります.それは

  • 扁平二層構造の気球本体
  • 平行ロープによる係留
  • 地上からの高圧直流による電力供給
これらについて以下に順に説明していきます.


  
実験場となる北海道せたな町梅本牧場
気球本体部
  〜扁平な二層構造〜

ヘリウムガスを入れる気球本体に求められることは,以下のようにまとめることが できます.

  • ヘリウムガスの長期間閉じこめておけること.(ガスバリア性)
  • 風に対する抵抗が少なく空中での位置・姿勢が変化しにくいこと.
  • 気温の変化に対して気球の形状を保ち,搭載機器(ロード)の重量を支えることができること.
  • 外力や衝撃が加わっても破裂や急激なガス漏れが発生しないこと.
これらの要求事項を満足するために,InfoBalloon-IIIでは次のような構造をしています.
外層と内層の二層構造
InfoBalloon-IIIではヘリウムガスを長期間閉じ込めておける特殊なフィルム(EVOH)を内層,機械的強度の強いナイロンシートを使用した外層の二層構造をしています.これに よって,軽量でも衝撃等にも強く,ヘリウムガスが抜けにくい気球本体部を実現しています. また,内層が何らかの理由で破断しても外層でヘリウムガスがしばらくの間は保持されるので事故による落下の危険も減少します.ちなみに簡易型のInfoBalloon-IVでは 内層・外層・バロネット(後述)を一体化した構造を採用して組立の手順を省略しています.
扁平球の形
InfoBalloonの形は,高さを直径の6割くらいの上下につぶれた球形をしています. この形は球よりも横風を受ける断面積が小さくなることと,横風に対して適切な迎え角(風が気球の下側に当たるような角度)を付けることで,気球を風下に押し流す抗力よりも大きな,上に引き上げる揚力を発生します.これは航空機の翼と同じ原理です.揚力は 気球を係留している点の真上に戻そうという効果を生みます.また扁平球は垂直の中心軸に対して対称なので風向きが変化しても気球が回転しにくいという効果もあります.
バロネットによる圧力調整と形状保持
気球の内層に注入・密閉されたヘリウムガスは外気温の変化に伴って膨張や収縮をしようとします. 気温が上がったときに膨張して破裂をすることを避けるために,ヘリウムガスは少し少なめに入れてあります. ただし,そうすると気球本体はブヨブヨになってしまいますので,外層の中に内層と接するように 加圧調整袋(バロネット)を設けて,ブロアファンで空気を送り込んで外気圧に対して一定の圧力を加えた圧力を気球内部に加えています. これによって気球は常にピンと張った形を保ち,気球下部に機械等を搭載しても形が崩れません.こうした方式は軟式飛行船の分野で使われているものです.
こうした理由で決定されたInfoBalloonの形状ですが, 遠くからはUFOのように見えるせいか,地上にいる人の目を 引きやすいようです.

気球部本体部分の寸法や容積については,仕様のページをご覧ください.



  
InfoBalloon-III気球部本体
 

  
気球部本体断面図
係留部
  〜上空と地上をつなぐ要〜

係留気球は気球と地面とを係留ロープで結び付けて使用します. アドバルーンのような地上の一点から1本のロープで係留する方式だと, 風の方向や強弱が変わる度に,空中の気球が大きく位置を移動してしまいます.

空中で安定して係留するために従来から行われているのは多点係留で, 地上の離れた複数の地点と係留ロープで結ぶことで空中での安定性を 得るものです.ただし,この方法では地上に広い空き地が必要となり ますし,気球の係留や回収の作業には多くの人手が必要となります.

InfoBalloonで開発された係留方式は,一点係留と多点係留の長所を併せ持つ 新しい係留方式です.この方式の概要は以下の通りです.

  • 気球を複数(小型・中型で3本,大型で6本)の平行な係留ロープで保持します.
  • 係留ロープの地上側はピボットベースとよばれる4面体状の構造物の3頂点に固定します.
  • ピボットベースの残りの1頂点で地上に接続します.その際に,頂点を支点にして ピボットベースが運動できるようにします.
  • 気球が上空で風のため風下に流されると,ピボットベースも傾き,気球は横風の風上に対して気球下面を向けるように姿勢が自然に変化します.これによって揚力が発生して風下に流されることを妨げる力が働き,空中での気球の位置が安定化します.
気球の形状を扁平球にした時に,普通に多点係留(たとえば3点)をすると 気球は空中で大変に不安定な状態となります.風が吹くと木の葉のように振れ動き,そのうち上下が逆転してしまったりします.この扁平球形状の気球をここで述べた係留方法で 係留すると風に対して上空での位置・姿勢は見違えるように安定します.

本係留方法を用いた場合,地上で必要とされる面積は約5メートル四方です. そのためビルの屋上や校庭の一角,防波堤,山間部の狭隘な空き地などでも係留が可能と考えています.

上述のピボットベースを用いた手法は,設置時に組立・調整が必要なことと, ピボットベース自身の質量のため,傾斜の追従に遅れがでるのが課題でした.これに関して, ピボットベースを使用しない「狭三角係留点固定法」を新たに考案し,2012年より評価を行っています. これまでのところ,従来の手法よりも安定した係留を簡便に実現できています.



  
平行ワイヤーとピボットベース
電力供給部
  〜搭載情報機器の基盤〜

上空に浮いている気球の場合,そこに搭載している機器が使用するエネルギー(具体的にはほとんどの場合が電力)をどう用意するかが大きな問題となります.数時間といった一時的な運用の場合には搭載機器をバッテリー駆動させることで対応でくる場合があります. しかしながら継続的に運用して情報収集と配信を行うためには,地上から電力を供給してやる必要があります.

上空100mに係留されている気球に,たとえば交流100Vの電源コードで送電することを考えると,電源コードだけでかなりの重量になります.また,電源コードの太さもあるため, 風が吹いた時に大きな抵抗を生じて気球の係留に悪影響を与えてしまいます.また,重量を減らすために細い電源コードを使用すると,電気抵抗のため電力のロスが大きくなって しまいます.そこで,InfoBalloonにおいて電力供給部は次のような方法で実現されています.

  • 送電線には直径1.3mmのテフロンシールドの極細同軸ケーブルを使用しています.これは高耐電圧,低電気抵抗,高耐候性を持っており,軽量で風の影響をほとんど受けません.
  • 送電線に供給する電力は,電気抵抗による損失を軽減するために,AC100VをDC300Vに 変換して送電しています.これを上空のInfoBalloonに搭載した電源ユニットで,DC 3.3V, 5V, 7V, 12V, 15Vに変換して監視カメラや無線装置に電力供給をしています.
将来的にはこの送電線を用いたデータ伝送も行いたいと考えています.

 

  
係留ワイヤー(上),同軸送電ケーブル(中),AC100V用の電源ケーブル(下)
 【問い合わせ先】
  小野里雅彦 (TEL/FAX 011-706-6435,E-mail onosato(at)ssi.ist.hokudai.ac.jp)
北海道大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻 システム環境情報学研究室
Digital Systems and Environments, Division of Systems Science and Informationcs,Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University
  〒060-0814 札幌市北区北14条西9丁目  N14W9, Sapporo, 060-0814, Japan   URL: http://dse.ssi.ist.hokudai.ac.jp